東京地方裁判所 平成元年(特わ)2418号 判決 1990年4月27日
本店所在地
東京都渋谷区道玄坂二丁目一五番一号
松竹エンタープライズ株式会社
(右代表者代表取締役 加藤嘉夫)
本籍
東京都世田谷区上野毛四丁目七番
住居
東京都世田谷区上野毛四丁目七番二〇号
会社役員
加藤嘉夫
昭和二〇年四月一一日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人松竹エンタープライズ株式会社を罰金一億円に、被告人加藤嘉夫を懲役一年六月に各処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人松竹エンタープライズ株式会社(以下、被告会社という。)は、東京都渋谷区道玄坂二丁目一五番一号に本店を置き、不動産の売買、仲介、賃貸等を目的とする資本金一六〇〇万円の株式会社(但し、昭和六一年八月五日以前の資本金は一〇〇万円、同年八月六日から同年九月二四日までの資本金は四〇〇万円)であり、被告人加藤嘉夫(以下、被告人という。)は、被告会社の代表取締役として被告会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、支払仲介手数料を架空、水増計上し、あるいは不動産売上、仲介手数料収入、雑収入を除外するなどの方法により、所得金額あるいは課税土地譲渡利益金額を秘匿した上
第一 昭和五八年一一月一日から昭和五九年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億六七二一万六九八六円あった(別紙1修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和五九年一二月二七日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八六六万〇二四八円であり、これに対する法人税額が二七一万九九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成二年押第九八号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七一三七万四六〇〇円と右申告税額との差額六八六五万四七〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れ
第二 昭和五九年一一月一日から昭和六〇年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億九一五八万六二三三円(別紙3修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が二億三一八八万二〇〇〇円あったのにかかわらず、昭和六〇年一二月二八日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億〇〇五一万〇五八五円、課税土地譲渡利益金額が一億三四二四万円であり、これに対する法人税額が一億一一九六万五五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成二年押第九八号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二億一四二二万九八〇〇円と右申告税額との差額一億〇二二六万四三〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ
第三 昭和六〇年一一月一日から昭和六一年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七億四九九二万〇三二五円(別紙5修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が一億六〇七九万八〇〇〇円あったのにかかわらず、昭和六一年一二月二七日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億六九三八万一六七六円、課税土地譲渡利益金額が一億四四八〇万七〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一億三九八五万六三〇〇円(但し、税額計算方法を誤り確定申告書には一億三九八五万六二〇〇円と記載)である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成二年押第九八号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三億五一一二万七八〇〇円と右申告税額との差額二億一一二七万一五〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書七通
一 仁平稔の検察官に対する供述調書
一 収税官吏作成の支払仲介手数料、交際接待費、諸税公課、受取利息、支払利息、交際費等の損金不算入額、事業税認定損の調査書
一 税務署長作成の証明書及び証拠品提出書
一 登記官作成の登記簿謄本
判示第一の事実につき
一 収税官吏作成の欠損金の当期控除額の調査書
一 押収してある昭和五九年一〇月期の法人税確定申告書一袋(平成二年押第九八号の1)
判示第二、第三の各事実につき
一 検察官作成の事業税認定損の計算の捜査報告書
一 収税官吏作成の不動産売上原価、分配金、減価償却費、旅費交通費、雑収入、課税土地譲渡利益金額、仲介手数料収入申告額、課税土地譲渡利益金額補正の調査書
判示第二の事実につき
一 収税官吏作成の不動産売上、直接販売費の調査書
一 押収してある昭和六〇年一〇月期の法人税確定申告書一袋(平成二年押第九八号の2)
判示第三の事実につき
一 検察官作成の仲介手数料収入の捜査報告書
一 収税官吏作成の仲介手数料収入、家賃収入、雑費、有価証券売却益の調査書
一 検察事務官作成の仲介手数料収入、支払企画料、雑収入の捜査報告書
一 押収してある昭和六一年一〇月期の法人税確定申告書一袋(平成二年押第九八号の3)
(法令の適用)
罰条
被告会社 各法人税法一六四条一項、一五九条一項、情状により各一五九条二項
被告人 各法人税法一五九条一項
刑種の選択
被告人 各懲役刑選択
併合罪加重
被告会社 刑法四五条前段、四八条二項
被告人 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)
(量刑の理由)
被告人は、被告会社の業務に関し、判示認定のとおり三年間にわたり法人税を脱税したものであり、その脱税額は合計三億八二一九万円余、土地譲渡利益金額に対する税額を控除しても合計三億五九四六万円余と高額であり、そのほ脱方法は、不動産の売買取引につき他の法人を利用して不動産売上を除外し、売上原価を架空、水増計上し、不動産売買の仲介取引につき、他の法人を利用して仲介手数料収入を除外したり、支払仲介手数料を架空、水増計上し、他にペナルティや融資謝礼金、架空領収書発行の謝礼金の雑収入を除外するなどしたものであり、その隠匿方法は多岐にわたっている上、右支払仲介手数料の架空、水増計上は、その一部は当時の有力取引先の社員に対する分配金を工面するためにしたものであるが、領収書発行者と通謀して多数回にわたりなしており、犯情は悪質であること、犯行の動機も将来の営業資金を蓄積しようとしたものであるが、特に酌むべきものとはいえず、これら諸点を考慮すると、被告会社及び被告人の刑事責任は重いものがある。
他方、被告人は、昭和五二年一〇月被告会社の代表取締役に就任後相当期間欠損に苦慮し、不動産取引の好況時期に将来の営業に備え簿外資金を蓄積しようとしたものであるが、その背景は理解できること、被告人は昭和六二年六月の査察開始後、脱税を深く反省し、改悛の上事実関係を詳細に供述し、昭和六三年三月には被告会社の修正申告をし、その後平成二年一月までに資産の売却、融資資金等により関係本税、附帯税、地方税を納付し、その間新たに依頼した税理士の指導を仰ぎ売上帳、出納帳等を整備し、月次決算をするなど経理事務の体制を改善していること、被告会社及び被告人は本件発覚後取引先の信用を損なった上、被告人の家族とともに相当程度の社会的制裁を受けていること、現在なお被告人の健康状態が優れないことなどの有利な事情がある。
右事情の外、記録上窺える被告会社、被告人にとり有利な事情を充分考慮しても、前記被告会社及び被告人の刑事責任はそれぞれ重く、右有利な事情は、懲役の刑期、罰金額で考慮し、主文のとおり量刑する。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑 被告会社につき罰金一億三〇〇〇万円、被告人につき懲役二年六月)
(裁判官 柴田秀樹)
別紙1
修正損益計算書
<省略>
別紙2
脱税額計算書
<省略>
別紙3
修正損益計算書
<省略>
別紙4
脱税額計算書
<省略>
別紙5
修正損益計算書
<省略>
別紙6
脱税額計算書
<省略>